カンボジア放浪記その2

朝の8時半にホテルロビーに集合するように、と言われていたのでなんとか6時に起き、シャワーを浴びて食事を済ませた。

朝食はバイキングで洋風な料理とその場で作ってくれるヌードルがあった。ヌードルはフォーにとても似ていたが一応違うようである。モヤシも茹でてくれたのでよかったが、調理は屋外で行なっていたため野菜や器にハエがたかっていた。見なかったことにした。ホテル内は寒かったので温かいヌードルは大変美味しく感じた。


ロビーに行くとガイドさんと若いお兄さんがいた。今日はこの2人と私、友人とドライバーさんで行動する、とのこと。まずカンボジアの遺跡(アンコールワットなど)に入る為のチケットを受け取りに行った。お金は旅行会社を通して事前に支払っていたのでカウンターで顔写真を撮り、数分待つと受け取れた。この時点で自分の輪郭が丸くなってきているのが気になった。

 

これで遺跡に入れるようになったのでアンコールトムに向かう。Angkor Thomはクメール語で大きい都市という意味である。3キロメートル四方で城壁に囲まれている。有名なのは南大門で、門の上部では観音菩薩が笑みを浮かべ東西南北それぞれに顔を向けている。この4つの顔にはそれぞれ意味がある、とガイドさんは言っていたのだが忘れてしまった。おそらく慈愛などのはず。もし知っている人がいたら教えて欲しい。

南大門を越えてアンコールトムに足を踏み入れるとそこは神と王様の世界である。カンボジアでは神と王は同等とみなされ、信仰の対象とされてきた。門の外側は人間の世界であり、境界をはっきりさせる為、巨大な堀がある。そして二つの世界を繋げるための橋がかかっていて、両端にはそれぞれ54体の石像がある。石像は神と悪魔を表現し、それらはナーガ(ヴァースキ)という蛇の胴体を引っ張っている。写真が貼れないので説明がわかりにくく申し訳ないのだがそんな感じ。これは乳海攪拌というヒンドゥー教天地創造神話を再現している。(ちなみに堀は海を表している。)乳海攪拌はざっくりと説明すれば神と悪魔が不老不死の薬を得るためにナーガを山に巻きつけ、それを引っ張り合う、というもの。薬を作る過程で地上の生物は死に絶え、完成しても誰が最初に飲むかで神と悪魔で戦争が勃発する。現地で3人からこの話を聞いたがそれぞれ若干違っていたのでそのうち、まとめてみようと思う。

南大門には観音菩薩の彫刻があり、橋にはヒンドゥー教の神話をもとにした石像がある。宗教がごちゃ混ぜになってしまっているのでは?と思ったのだが、実はわざとそうしているらしい。

前述の通り、王は神と同等の力を持つとみなされていたため、王の後継争いは続き、更に自分の権力を確固たるものにするため宗教を利用した。前の王が仏教を推奨していれば自分はヒンドゥー教を推奨したり、王宮や巨大な寺院を作らせたりもした王もいたようである。前の王と自分を比べられたくなかったのであろう。また仏教からヒンドゥー教に宗教が変わると、前の王が作った寺院などは破壊されたり、彫刻部(レリーフ)を削り取られたりもされていた。

アンコールトムを建設させた王は当時主流だったヒンドゥー教と自身が信仰していた仏教を意図的に混ぜることで統治しようとした。乳海攪拌はヒンドゥー教の神話であり、それを表した橋の石像の数は全部で108と仏教由来である。(ヒンドゥー教なら石像の数をそれぞれ奇数としたはずである。そちらの方が縁起が良いらしい。)またこの王は大変慈悲深く、病院を設置し、国力の充実に努めた。その結果、軍はとても強く、国民からの信頼も厚くなった。ただ、アンコールトムの建設に尽力しすぎたために建設後の戦争では負けてしまう。

その後、アンコールトムは一度日本人に見つかったあと、フランス人によって発見される。フランス人たちは修復という名目のもと、車を使って石像を持ち出せるよう、橋の石畳の上にコンクリートを敷き、橋の両端の石像などもこれで補強した。あまり石とコンクリートの相性が良くないらしく雨などで侵食されていた。また、車が通れるようになったためバスやバイクが何度も南大門をくぐるので排ガスで汚れてしまっていた。そんなわけでガイドさんはフランス人のことをよく思っていないらしい。まぁ納得。遺跡も返してもらえない、とも言っていた。一応現在では石像のコンクリートは剥がして相性の良い材料で補強しているようである。

 

世界遺産として登録されると有名になり観光客が増えるので地元の経済は潤うと思う。ただ人が増えれば遺産に対して影響は少なからず出てしまうというマイナス面も感じた。南大門は汚れ、そしてバイク等の若干の振動によって綺麗に積み上がっていた石たちにズレも生じてきているようである。世界遺産登録を急ぐ前にこのようなマイナス面があることも考慮する必要があるかもしれない、と世界遺産だからという理由で観光に来た私は考えた。

 

※今回の話では一部史実や通説と異なる部分がある可能性があります。ガイドさんに説明を受けたことをそのまま書いているつもりなのでより正確なことを知りたい人は鵜呑みにせず、調べてみることをお勧めします。